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新年度予算に見る市区の防災計画

根底から覆された市区の防災政策

 東日本大震災は東京都や市区町村にも大きな衝撃を与えました。各自治体がこれまで定めてきた防災計画は、国(中央防災会議)が想定した地震規模(M7)で組み立てた都の防災計画を踏まえて策定されてきたものです。東日本大震災は想定を遙かに上回る「M9」という規模と巨大津波の発生、加えて大都市・東京であるが故の「帰宅困難者」の大量の出現、原発事故による放射能汚染など、都や市区町村が定めていた「防災計画」を根底から覆すものでした。現在、中央防災会議や東京都でも地震規模の見直しや津波被害想定の検討がすすめられており、市区町村の防災計画の改定はそれを待って行なわれる予定です。今後は「国民保護法制」との関連に注視しながら、津波や帰宅困難者を含む首都直下型地震対策、都市型水害や新たに加わった放射能汚染対策などを組み込んだ「わがまちの防災計画」づくりへの対応が私たちに求められています。編集部では出そろった26市・23区の2012年度予算案を子細に調査し、盛り込まれた主要防災対策事業の概略をとりまとめました。資料としては市・区のホームページから予算案等を極力入手することに心がけました。

都は帰宅困難者対策を先行し条例化

 市区を通じていえることは地域防災計画改定経費を予算化していることです。「3.11」を受け、2011年度から改訂準備のために有識者や住民代表からなる検討組織を設置し検討を進めてきた自治体や、計画改定に向けてパブリックコメントに取り組んできた自治体も見受けられます。
 東京都では2011年5月、「3.11」を受けて「都政運営の新たな戦略」を公表。その後、同「戦略」の防災部分に重点を置いた「防災対応指針」を同年11月に取りまとめ、東京都の防災対策の方向性を示しています。「指針」では、2012年夏に「東京都地域防災計画」の改訂作業を終えるとしていましたが、過日の都議会第1回定例会で「9月に素案を取りまとめ、パブリックコメントを経て……」と総務局長が答えていることから、改訂作業が当初予定よりかなり遅れることは明らかです。都の計画改訂を待っている市区での作業もそれに連動されます。こうした状況の一方、東京都は帰宅困難者対策に限っては第1回定例都議会に新たに条例(別掲)を提案し、2013年4月からの実施を予定しています。

防災行政無線の改修・増設が目立つ ~26市の主な防災対策事業

グラフィックス2.jpg災害発生時、住民への情報提供手段としての「防災行政無線」の改修や増設を予算化した自治体が目立っています。青梅市が420万円、町田市が1億3千万円、羽村市6千600万円、西東京市が91万円となっています。また、武蔵村山市では学校に緊急地震速報受信機を配備するために724万円を、三鷹市では防災行政無線個別受信機を200カ所に配備するため94万円を計上しています。
 帰宅困難者対策として市内主要駅前に災害対策用テレビカメラを立川市(4千483万円)と、武蔵野市(400万円)で予算化しています。放射線対策では、東村山市で給食食材用放射能測定機器と市民貸出用放射線測定器を購入(合計350万円)、国立市でも放射能測定器と線量計の購入(496万円)を予定しています。国分寺市でも330万円で、学校や保育園の給食食材放射能検査を行うことにしています。
 施設面の整備では、八王子市がPFI方式による体育館新設に非常電源装置などの防災設備を付加、三鷹市は防災公園の整備、府中市は小・中合わせて9校の学校耐震化を、福生市は震災発生時に避難所となる保健センター改修、狛江市では市庁舎の耐震化と防災センター整備、東大和市では市立保育所の耐震改修を、あきる野市は市庁舎別館など災害避難所に使う4施設の耐震補強を実施することにしています。このほか、小金井・清瀬・多摩市・稲城市などで災害対策備蓄品購入予算を計上しています。なお、小平・日野市については、ホームページから新年度予算案について読み取ることが出来ませんでした(右の写真は、震災当日、帰宅困難者であふれる新宿駅)。

都心区を中心に帰宅困難者対策 ~23区の主な防災対策事業

  都心区と主要なターミナル駅を抱える区での「帰宅困難者対策」事業が目立っています。企業等の備蓄物資助成で900万円を計上した千代田区、帰宅困難者の協議会設立に766万円を充てた中央区、港区では2011年10月に施行した「防災対策基本条例」に基づき3868万円を、豊島区でも625万円を、練馬区で1億円余を予算化しています。また、防災行政無線の整備や災害情報システムを再構築する予算を計上している特別区は、新宿・文京・渋谷・北・板橋・練馬・葛飾の7区に上っています。
 大規模な防災対策施設整備では、防災空間となる大規模な3カ所の公園整備に52億円余を計上した中野区、2億7千万円で対策本部機能を強化する世田谷区、震災救援所周辺等の不燃化に1億3千万円を予算化した杉並区などがあげられます。また、防災備蓄物資の増強については23区全体で見受けられますが、大田区は公私立保育所・福祉避難所防災備蓄物品の増強に約1200万円を充てていることが特徴的です。

豊島区は罹災証明書発行をシステム化

 土地柄を表している事業としては、品川区が区内500カ所に「海抜表示板」設置のため800万円を、江東区が「高層住宅震災時活動マニュアル」策定援助で507万円を、江戸川区では液状化に伴う被災住宅修復支援として5千万円余を予算化しています。
 ユニークな施策として2区の事業をあげます。ひとつは豊島区の「り災証明書発行システムの導入」です。これは簡易なチャートを活用し、建築に関する専門知識がない職員でも公平公正に被害調査を実施でき、スキャナーでの調査票読み込みにより入力作業を大幅に縮減、さらにGIS(電子地図)を活用して、被害調査結果と住民記録、課税台帳とのデータ照合を効率的に行うというものです。事業費は約1千万円です。義援金請求や税の減免などに資するため1日当たり50軒程度調査し、約1カ月で罹災証明書を発行するとしています。また、墨田区では動物病院などの協力を仰ぎ被災ペットを一時的に保護するための事業、148万円を予算化しました。


副都心として独自財源投入した対策も   豊島区議会議員 山口 菊子

yamaguchikikuko.jpg豊島区は日本で一番人口密度の高い自治体です。また、池袋駅を中心とした地域が副都心に位置づけされています。同駅の乗降者数が1日260万人にのぼる「交通要所」であることから、
帰宅困難者対策が求められています。加えて、大都市の特徴として、匿名性社会を望んで住む人が多いこと、人口の流動性が高いことなど地域コミュニティに課題があります。以上のような課題を抱える自治体として、国や東京都の施策以外にも豊島区独自に一般財源を投入するなど、100%とは言えませんが取り組みは十分に行っていると考えています。

東京都帰宅困難者対策条例(案)

都議会第1回定例会に提案された「帰宅困難者対策条例」は、「大規模災害発生時の帰宅困難者による混乱や事故を防止し、都民の生命、財産等を保護するとともに、首都機能の迅速な回復を図るために制定する」としています。条例案の骨子は以下の通りです。なお、施行期日は2013年4月1日としています。今後、都では今秋を目途に、従業員の施設内待機や利用者保護の具体的な手順を盛り込んだ実施計画を策定する方針です。
1 一斉帰宅抑制の推進(努力義務)
 ①従業者の一斉帰宅の抑制、3日分の飲料水・食料等の備蓄
 ②駅、大規模な集客施設等の利用者保護
 ③学校等における児童・生徒等の安全確保
2 安否確認と情報提供
 ①都と事業者等との連携協力による安否情報確認、災害関連情報等の提供のための基盤整備。
3 一時滞在施設の確保
 ①都立施設及び都関連施設を一時滞在施設に指定、都民等へ周知
 ②一時滞在施設確保に向けた国、区市町村及び事業者への協力要請
4 帰宅支援
 ①代替輸送手段や災害時帰宅支援ステーションの確保、災害関連情報の提供。