2012.2policy_sdp,tokyo



公契約条例の拡がり

息の長い取り組みが結実

 公契約条例制定の動きが拡がっています。野田市にはじまり、川崎市、相模原市そして東京都では初めて多摩市で具体化しました。さらに世田谷区をはじめ検討中の自治体も少なくないといわれています。公契約条例については、重層下請が当たり前になっていて、ピンハネや倒産などで不安定な状態にある建設労働者の賃金や労働条件を保障するものとして、旧社会党時代から社民党は、全建総連などとともに制定に取り組んできました。この地道な運動が、今、実を結びつつあるのです。

ILO関連条約未批准の日本

 公契約条例とは、自治体が発注する工事請負契約や業務委託契約などにおいて、その仕事に従事する労働者の賃金の最低額を定め、これを下回らないように契約の中で明らかにすることです。国が定める場合には公契約法、自治体が定めるものを公契約条例ということになります。
 この考え方はすでに世界的には常識になっており、1931年には、アメリカでデイビス・ベーコン法という公契約法が成立し、1949年にはILO(国際労働機関)で「公契約における労働条項に関する条約」(94号条約)が決議され「公共事業に従事する労働者にその地域のその職種の標準的水準を下回らない公正な賃金や労働条件を保障することを求める」こととし、多くの国で批准されています。残念ながら日本は批准していません。
 また、アメリカでは、リビングウェッジ(生活保障賃金)運動が全国に拡がり生活保障条例等が制定されています。この条例は自治体などの公共的団体と委託契約や補助金を受けている業者に対して、生活できる賃金の支払いの保障を求める内容となっています。国や自治体が契約を通じて賃金水準を確保しようとする考えは、公契約にとどまらず他の民間の契約にも大きな影響を与えることになります。

「官製ワーキングプア」をストップ

 建設労働者の労働条件確保から始まったこの運動が大きな拡がりをもつにいたったのは、自治体の業務の民間委託化、指定管理者制度が拡がり、多くの非正規・不安定・低賃金労働者が生み出されてきたことです。例えば自治体が業務を民間委託する際には、入札を行いますが、入札のたびに入札額が下がる傾向にあり、結局は、それが労働者にはね返り、労働条件が低下するという状態になりました。これまで自治体は、「入札で勝つということは企業努力」だとしてきましたが、実際は低賃金労働者、いわゆる「官製ワーキングプア」を次々と生み出してきたのです。
 公契約条例をつくり賃金水準を契約の際に決めておけば、企業努力は賃金へのはね返りではなく、別のところで行うことになります。これは指定管理者制度でも同じことです。
 自治体の財政が厳しくなり、経費の節減が目指されてきたなかで、非正規・不安定・低賃金労働者を生み出す実態を、自治体側が知らなかったわけではありませんが、労働条件は「そもそも労使の問題」だとして、現実に目を向けることを意識的に避けてきたと言えます。
 自治体職場をみてみれば、同一職場に様々な身分の労働者が働くことが常態化しています。正規職員、非常勤、派遣、臨時などです。しかも正規職員と違い他の労働者は驚くほどの低賃金となっています。この現実に対応しなければならないという機運が各地で盛り上がりつつあり、さまざまな形で運動がはじまっています。非正規・不安定・低賃金の労働者が膨大に生まれることは、社会のあり方、国や自治体の形を歪めます。当然ですが、購買力は下がり、税収も下がります。社会保障のあり方にも大きな影響を与えます。社会が健全なものでなくなることを意味しているからです。

野田市が先鞭をつける

自治体議会でも様々な動きがありました。ただこれまでは、国に対しILO94号条約の批准・公契約法の制定を求める意見書や決議にとどまっていました。自治体側も公契約条例に踏み込むにはバックボーンとしての公契約法がほしかったことや、本来的には国の仕事だという意識があったからです。現状でも公契約条例をさらに拡大するには公契約法の制定が必要ですが、動かない国に対して、自治体側が公契約条例をつくり始めたといえます。このことは、野田市が条例制定にあたって「先導的、実験的に制定し、国に法整備の必要性を認識させようとする(野田市条例前文)」としていることにも表れています。
 一方、国や自治体の中でも入札についての改善の動きがありました。「政策入札」という考えが生まれ、単に入札金額だけで落札するのではなく、例えば男女雇用、障害者雇用などを積極的に進めていることを加味することや、きめ細かな発注者側の意向反映が可能となる総合評価方式の入札制度もできることとなりました(平成11年地方自治法施行令の改正)。
 「官製ワーキングプア」への批判が強まるにつれて、委託や指定管理者制度の中で、労働条件をチェックする仕組みづくりも始まっています。板橋区では、低入札金額の場合、人件費の詳細な内訳を求める、賃金支払い状況をチェックすることとし、また指定管理者制度でも人件費の算定基準を「職員標準人件費の6割を上限」としていましたが、改善の方向でより実態を反映したものに見直しをしました。さらに、多くの自治体で指定管理者制度での受託団体の雇用の実態をチェックするなどのモニタリング制度などを取り入れるようになりました。公契約条例に至らなくても多くの改革や改善が可能です。

ポイントは賃金の下限額設定に

 公契約条例のポイントは、賃金の下限額をどのに対して「賃金は最低賃金制があるから、それでよいのではないか」としてきているところが少なくありませんでした。しかし、現状の最低賃金制度の水準は低く生活保護を下回ることもあります。そこで、どのように設定されているか、公契約条例の適用範囲とあわせて多摩市の例をみてみます。なお、下限額の論議は、さらに条例制定をする自治体が増えることによって深められていくことになります。


【多摩市の公契約条例の内容】
適用する公契約等の範囲及び労務報酬下限額

・予定価格が5千万円以上の工事または製造の請負契約の場合は、農林水産省及び国土交通省が毎年度作成する東京都の職種ごとの「公共工事設計労務単価」を基準額とする。
・予定価格が1千万円以上の業務委託契約のうち一定の業種・種目の場合は、市長が別に定める期日までの間は、多摩市における生活保護基準とする。
・一定の業種とは、契約金額のうち人件費の割合が高いと思われる業種で、各施設等の清掃業務、維持管理業務、可燃物等収集運搬業務、子育て支援業務、高齢支援業務、  障がい者支援業務(障がい者福祉センター事業、通所訓練事業、デイサービス事業、支援センター事業、就労支援事業)。
・指定管理のうち、市長または教育委員会が必要と認めたものは下限額を決める。
・下限額を定めるときは、多摩市公契約審議会の意見を聴く。

条例で規定するその他の事項

・公契約の適用労働者の範囲
①受注者および下請負者(2次下請以下の業者を含む)に雇用され、公契約に係る業務に従事する者。
②労働者派遣法の規定により公契約に係る業務に派遣された者。
③自らが提供する労務の対価を得るため、受注者または下請負者との請負の契約により公契約に係る業務に従事する者(いわゆる一人親方)。
・受注者連帯責任について
受注者(元請)はもとより下請業者等の受注関係者が労働者に支払った賃金等の額が最低賃金を下回ったときは、その差額分の賃金等について連帯して支払う義務定める。
・台帳の整備等について労働者等の氏名、従事する職種、時間、賃金等の額および支払うべき日その他規則で定める事項を記載した台帳を作成し、市長に報告すること。また申し出があった場合は報告を求め、立ち入り調査等ができる。
・是正措置について
①条例違反の場合、是正措置を命ずる。
②命令に従わないとき、報告をしない、虚偽の報告をした等の時には契約の解除をし、公表する。

sakumamutsumi.jpg佐久間むつみ・多摩市議のコメント
官製ワーキングプアーを無くそうとする私の政策目標のひとつが実現しました。市、事業者、労組、議会などの声が集まってまとめられたもの。さらに施行の中で検証していきます。そして、多くの自治体に拡がってほしいと考えています。